付録規範一覧 ── 本書が定めたこと
この一覧の読み方
本書の規範は全部で43項目、歯止めは8項目である。
規範は各章の本文に散らばって置かれている。書かれた場所は、その規範が効く場所であって、数えるための場所ではない。ここでは、それを章順に一列に並べる。
ここに並ぶ規範は、次の3つを満たすものだけである。
- 誰かに行為を課すか、何かに状態を求めている(「〜する/しない」「〜であること/〜が行われていること」)
- 守られているかを判定できる
- 破ると、本書の機構(検査・台帳・辿り)が成立しなくなる
- 歯止め(検査で何を問わないかの線)は、義務ではあるが規範とは別の分類である。末尾の別表に並べる。
- 定義(語や機構の意味を固定する文)、本書の立場(宛先が本書自身の宣言)、プラクティス(参考になるやり方。採否はプロジェクトが決める)、まだ決まっていないことは載せていない。混ぜると「結局いくつ守ればよいのか」が分からなくなる。
- AI依存の列に●が付いている規範は、AIの2026年時点の能力を前提にした規律である(はじめに)。AIが進歩すれば緩められる。印のない規範は、誰が責任を持つかの問題なので、AIがどれだけ賢くなっても残る。
- 宛先は、その規範を守る人である。書き手(成果物やADRを書くSE)/プロジェクト(開始時に決める側・運用を設計する側)/検査の実行(検査を回すAIに課す規律)の3つに分けた。
- 正本は本文である。この一覧は索引であって、定義ではない。一行に畳んだ書き方では、本文が付けている但し書き・実例が落ちる。実際に運用するときは、必ず「本文の位置」の節を読むこと。
- 開始時に決める設定項目は、ここには含まない。それぞれの章にある。
章ごとの内訳
| 章 | 規範 | 歯止め | 何についての規範か |
|---|
| なぜ今このメソッドか | 0 | 0 | (規範はない。シフトレフトの扱いは本書の立場として本文にある) |
| Trusted Spec の定義 | 1 | 0 | 業務ルールに関する決定に残す3点 |
| 育て方サイクル総論 | 2 | 0 | AIと人の線引き、辿る網の張り方 |
| たたく ── 叩き台の執筆 | 6 | 0 | 流れと成果物のつながり、検査が手掛かりにする要素、関係する決定の読み方、AIの出力の扱い、参照が辿れる状態 |
| 深める ── 議論・決定・未決 | 4 | 0 | 議論と記録の順序、未決の残し方と書き方、棚卸し |
| ADRの扱い ── 決定を書く | 7 | 0 | 起票の規律、ADRの要素、制約節の書き方(影響範囲と満たすべき状態) |
| ADRの扱い ── 台帳を守る | 3 | 1 | 状態と属性、1決定1ADRと置換、成果物との整合 |
| 広げる ── シナリオを歩かせる | 5 | 0 | シミュレーションの規律、参照の照合と【広げる】を混ぜない |
| 広げる ── レンズと歯止め | 5 | 7 | どのレンズにも共通する規律、【広げる】が見る範囲を足すときの書き方 |
| 確かめる ── ADR適合検査 | 2 | 0 | 当てる制約、AIの出力は3つの指摘だけ |
| 変更管理 ── 変更要求が来たとき、サイクルをどう回すか | 4 | 0 | 変更の1周(【深める】から入る)、全置換、前提が変わったとき、反映 |
| テスト工程 ── 観点カバレッジとDDPモニタリング | 1 | 0 | 試験観点と試験シナリオを考えるのは人 |
| 実装への接続 ── 「AIが実装できる仕様」を実装側から逆算する | 1 | 0 | 上流の仕様が実装側に応えるべき3点 |
| 導入とプロジェクトハーネス ── 明日から小さく始める | 2 | 0 | 発展の成立条件と、維持する責任者 |
| ADR運用の重さ ── 何が大変で、どこに注意するか | 0 | 0 | (規範はない。運用の重さの見立てと、既に定めた規範の再掲) |
| 合計 | 43 | 8 | |
規範の重心は、ADRの扱い(2章分)・【広げる】(2章分)・【確かめる】・変更管理にある。全43項目のうち26項目がこの6つの章に集まっている。育て方サイクル総論で見たとおり、本書が厚く書くのは後半の2ステップと記録である。
なぜ今このメソッドか
規範はない。シフトレフトの扱いは本書の立場として本文にある。
Trusted Spec の定義
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 業務ルールに関してプロジェクトが下した決定は、「何を決めたか/なぜそう決めたか(WHY)/誰の判断か」の3点とともにADRに残す。3つ目を落とさない。 | 書き手 | | 2章「②根拠がある」 |
育て方サイクル総論
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 決めるのは、常に人である。AIが出してよいのは、【たたく】では叩き台、【深める】では論点の整理、【広げる】と【確かめる】では問いと指摘までとする。決定・合否・修正案は、AIに出させない。 | 検査の実行 | ● | 3章「1周のストーリー」 |
| 決定は、成果物を経由して次工程へ伝える。成果物は直前工程の成果物を参照し、他工程のADRを直接参照しない。 | 書き手 | | 3章「工程をまたぐとき」 |
たたく ── 叩き台の執筆
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 業務の理解(業務の定義)から、業務の流れ、システムの振る舞い(ユースケース・要求事項)、約束事(業務ルール・状態の定義)までが、成果物の上で一本の流れとしてつながっていること。 | 書き手 | | 4章「何を書くのか」 |
| 成果物どうしがつながっていること。後ろの成果物から、何を受けて書いたのかを前の成果物へ辿れる。 | 書き手 | | 4章「何を書くのか」 |
| 成果物は、検査の手掛かりになる要素を備える——IDとIDでの参照、業務の流れのタスクごとの主体・開始条件・事後条件、状態・業務ルール・例外の定義と、そこへのつながり、成果物の種別。欠けている要素があると、それを手掛かりにする検査は、そこだけ空振りする。 | 書き手 | | 4章「検査のために、何を揃えておくか」 |
| 成果物は、自分が含まれる影響範囲と「横断」のADRの制約を満たし、つながっている上流の成果物と食い違わない。 | 書き手 | | 4章「関係する決定を、どう読み、どう残すか」 |
| AIの出力を、そのまま成果物にしない。 | 書き手 | | 4章「AIに、どこまで書かせるか」 |
| 成果物どうしの参照が途切れていないこと。参照先が実在し、逆向きにも繋がっていて、同じものが同じ名前で呼ばれている。IDの体系(接頭辞・桁数・採番の区切り)は、プロジェクトの中で統一されている。 | 書き手 | | 4章「参照が辿れる状態にしておく」 |
深める ── 議論・決定・未決
ADRの扱い ── 決定を書く
ADRの扱い ── 台帳を守る
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 台帳を保つために、ADRは次の状態と属性を持つ——状態・発生工程・発生箇所・確定者・置換リンク・前提とする決定。 | 書き手 | | 7章「状態と属性を残す」 |
| 記録の単位は1決定1ADRとする。承認済みになったADRは書き換えない。変えるときは新ADRを起票して置き換え、元ADRのステータスを「廃止(新ADRにより置換)」にする。削除・追記もしない。番号は再利用しない。 | 書き手 | | 7章「ADRの一生」 |
| 制約節に書いた影響範囲のうち、プロジェクトの文書に実在しないものは、すべて指摘する(「横断」は正しい値とする)。 | 検査の実行 | | 7章「成果物との整合を保つ」 |
広げる ── シナリオを歩かせる
広げる ── レンズと歯止め
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| AIは答え(理由/責務/基準/例外の中身)を生成しない。「考えた跡があるか」を問い、跡が見当たらない箇所を人に手渡すだけ。 | 検査の実行 | ● | 9章「どのレンズでも、AIに守らせること」 |
| 「ない」と断定しない。言ってよいのは「確認した範囲では見当たらない」までとし、どの成果物を、どんな言葉で探したか(言い換え・略語・業務用語とシステム用語の対応を含む)を添える。 | 検査の実行 | ● | 9章「どのレンズでも、AIに守らせること」 |
| 1根本論点1指摘。同一根本原因と判定してよいのは、次の3条件をすべて満たすときに限る——(1) 対象箇所または業務上のつなぎ目が同じ (2) 不足・矛盾・曖昧さの根本原因が同じ (3) 一方を解消すると他方も同時に解消される。 | 検査の実行 | | 9章「どのレンズでも、AIに守らせること」 |
| 指摘の行き先(未決型ISSUEにして議論する/成果物をそのまま直す/採らない)は人が振り分ける。AIは指定しない。 | 検査の実行 | ● | 9章「どのレンズでも、AIに守らせること」 |
| 【広げる】が見る範囲にプロジェクト固有・ドメイン固有のものを足すときも、「問い+歯止め」を1組にする。 | プロジェクト | | 9章「レンズは、育てて使う」 |
確かめる ── ADR適合検査
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 当てるのは、その成果物が含まれる影響範囲と「横断」を示す制約項目だけである。 | 検査の実行 | | 10章「何を確かめるか」 |
| AIの出力は、食い違っている/判断できない/どこにも書かれていない、の3つの指摘だけである。 | 検査の実行 | ● | 10章「何を確かめるか」 |
変更管理 ── 変更要求が来たとき、サイクルをどう回すか
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 変更要求は未決型ISSUEとして受け、影響分析 → 合意・決定(ADR)→ 反映(反映型ISSUE)の順に回す。決定の前に、成果物本体を書き換えない。影響を見るための試し書き(分析用の試作)は、成果物本体に混ぜない。 | 書き手 | | 11章「変更要求が来たら」 |
| 置換は全置換だけとする。小さな追加決定は、元のADRに追記せず、新しいADRとして並立して起票する。 | 書き手 | | 11章「決めて、ADRに残す」 |
| 複数の決定が共有している前提は、前提そのものをADRとして起票する。前提のADRが置換されたら、それを前提としていたADRを1件ずつ人が見て、置換するか維持するかを決める。一括で自動的に置換しない。 | 書き手 | | 11章「前提が変わったとき」 |
| 反映の作業は反映型ISSUEとして起票し、【確かめる】で指摘が出なくなったら、人が閉じる。 | 書き手 | | 11章「成果物に入れる」 |
テスト工程 ── 観点カバレッジとDDPモニタリング
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 試験観点と試験シナリオを考えるのは人である。AIに任せるのは、マトリクスの整備・突き合わせ・印のない交点の指摘といった作業の支援に限る。 | 検査の実行 | ● | 12章「テストの網羅を、どう示すか」 |
実装への接続 ── 「AIが実装できる仕様」を実装側から逆算する
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 上流の仕様は、実装側に次の3点で応える——①実装から要求まで、IDで遡れること ②やってよい範囲・いけない範囲が、推測ではなく参照で解決できる形で書かれていること ③未決が未決と分かること(実装AIが「埋めてよい空白」と区別できること)。 | 書き手 | | 13章「上流の仕様に求められること」 |
導入とプロジェクトハーネス ── 明日から小さく始める
| 規範 | 宛先 | AI依存 | 本文の位置 |
|---|
| 発展は、一般化したルールや観点が、守られていることを確かめる仕組み(検査やテストなど)に入ったときに成立する。一般化して移す先が決まらない決定は、発展させない(個別のADRのまま残す)。 | プロジェクト | | 14章「発展させるときに守ること」 |
| 発展したルール・観点が、その仕組みで守られ続けているよう維持する責任者を定義する。発展したルールを改めることは決定であり、元のADRを置き換える新しいADRを起票する。 | プロジェクト | | 14章「発展させるときに守ること」 |
ADR運用の重さ ── 何が大変で、どこに注意するか
規範はない。運用の重さの見立てと、既に定めた規範の再掲。
同章の「発展させたら、守られていることを確かめる仕組みに入れる」は、14章の規範の再掲である。ほかの工夫は、重さがどこに出るかの見立てから導いたもので、規範ではない。
歯止め一覧
歯止めは、検査で何を問わないかの線である。問いだけを置けば、検査は際限なく広がる。どこで止めるかを決めておくことが、検査を回せる量に保つ。全8項目。
| 章 | 歯止め | 本文の位置 |
|---|
| ADRの扱い ── 台帳を守る | 後の工程で出た決定の制約節が、前の工程の成果物を名指すことは、違反として弾かない。品質シグナルとして観測にとどめる。 | 7章「前の工程の成果物を名指す決定」 |
| 広げる ── レンズと歯止め | すべての要件には問わない。業務ルールに触れるものに限る。 成果物やその要素がIDでつながっているかは問わない。問うのは、つながっているものどうしが、中身として噛み合っているかである。 | 9章「業務との整合」 |
| 広げる ── レンズと歯止め | 誰が担うかの特定と、処理の中身は問わない。問うのは、事後条件が次の開始条件と噛み合うかである。 知る手段や権限の中身は提案しない。 受け渡しがうまくいかないと業務が止まるもの、後から取り返せないものから、先に問う(例:出荷の指示、支払いの確定)。同じ担当者が続けて行い、その場でやり直せるもの(例:入力して、そのまま確認する)は、基本問わない。 | 9章「境界・責任範囲」 |
| 広げる ── レンズと歯止め | 判断や確認をするタスクに限る。その中でも、判断を誤ったと後で分かったときに取り返せないものから問う(例:後のタスクがその判断を前提に進む承認や確定、お金や在庫を動かす判定)。取り返せるもの(例:下書きの保存、一覧の並べ替え)は、基本問わない。 取り返せない判断に限り、誰がいつ判断したかが、後から分かるかまで問う(例:与信の上限を超えた受注を、誰がいつ特別に承認したか)。どう残すか(形式・保存期間・手段)は問わない。 状態の名前が業務の言葉か、IDが振られているかは問わない(書き手が書いた直後に整える)。 | 9章「検証可能性」 |
| 広げる ── レンズと歯止め | あらゆる失敗は問わない。つなぎ目に集中する。定型の分岐(在庫あり/なし)と、単純なシステムエラー・入力エラーは問わない。 業務の流れへの関与が深い外部連携の失敗から厚く問い、流れから独立したものは基本問わない。 例外の中身は書かない。検討の跡があるかを問う。例外の一覧とのリンクの有無は問わない(書き手が参照として保つ)。 | 9章「正常系偏重」 |
| 広げる ── レンズと歯止め | 1つの伝票の中(見出しと明細など)の更新は問わない。問うのは、別々の業務の情報(例:入金と売掛金、受注と在庫)をまとめて更新する場合である。 排他制御の実装手段(楽観排他・悲観排他)は問わない。後工程の領域である。 | 9章「トランザクション境界」 |
| 広げる ── レンズと歯止め | 自機能の外で変わりうるデータに限る。確定・取り消せない操作の前提になるものから厚く問い、表示にだけ使うものは後にする。 整合性を保つ実装手段と、要件そのものの妥当性は問わない。 | 9章「機能成立性」 |
| 広げる ── レンズと歯止め | 跡が残る操作に限る(確定、外部への送信、他者に見える状態変化、金銭・在庫の増減)。自機能の中で閉じ、誰にも影響を残さない操作は問わない。 業務判断としての例外、入力チェック、障害時の処理方式は問わない。リカバリ手順の中身は提案しない。 | 9章「機能例外」 |