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第7章ADRの扱い ── 台帳を守る

書かれたADRを、台帳として守る章です。状態と属性をどう残すか、ADRがどんな一生をたどるかを定めます。

台帳を守る

ADRは、プロジェクトが進むにつれて何十、何百と溜まっていきます。1本ずつ書いただけでは、やがて次のことが分からなくなります。

ADRの束を、こうしたことに答えられる状態に保つ必要があります。

台帳として並べ、探し、つなぐには、決定の中身とは別に、ADRについての情報が要ります。

規範

台帳を保つために、ADRは次の状態と属性を持つ——状態・発生工程・発生箇所・確定者・置換リンク・前提とする決定。

それぞれ、次のことを表します。

発生箇所と影響範囲は、別のものです。X業務で生まれた決定が、Y業務の成果物にも影響することはあります。影響する相手は、制約節の影響範囲に書きます。

プラクティス

状態と属性を、ヘッダ(フロントマター)に持つ。ADRが増えて探すのが重くなったら、ヘッダと制約節から、影響範囲 → 影響するADR の索引を作る(AIなどに作らせてよい)。同じ属性を2か所に書かない。

たとえば ADR-0231 なら、ステータス節に書く代わりに、ファイルの先頭に次のように持ちます。

---
id: ADR-0231
状態: 仮決定
発生工程: 要件定義
発生箇所: 販売業務
確定者: 発注者側の販売業務責任者
置換元: なし
置換先: なし
前提とする決定: なし
---
# ADR-0231:送料無料の閾値は、業務部門が自分で切り替える

影響範囲はヘッダに写しません。制約節の各行(「販売業務の要求事項:…」)から読みます。

ヘッダに整理しておくと、次のような索引が作りやすくなります。

影響範囲                      影響するADR
横断                          ADR-0007
販売業務の要求事項            ADR-0231
販売業務の業務の定義          ADR-0231, ADR-0205
販売業務のユースケース        ADR-0231

ADRの一生

定義

ADRが取る状態は4つ(仮決定/承認済み/発展済み/廃止)。却下・保留・取り下げは状態に持たない(未決型ISSUEが担う)。

ADRの状態の移り変わり(4状態)
ADRの状態の移り変わり(4状態)

ADRに書くのは、決まったことだけです。まだ決まっていないことは、未決型ISSUEに置きます。

書いたばかりのADRは、仮決定です。「仮」とありますが、決定そのものはもう済んでいます。仮なのは記録のほうで、決定を正しく書き写せているか、制約節が検査に使える形になっているかを、まだ磨いている段階です。記録が決定を正しく写していると確かめられたら、承認済みになります。

プラクティス

検査には、仮決定のADRから載せる。指摘には、根拠にしたADRの状態(仮決定か承認済みか)を添える。

仮決定でも、決定そのものは済んでいます。だから、承認を待つあいだに検査の空白を作らずに済みます。状態を添えておけば、指摘を受けた人は、根拠の決定がどこまで固まっているかを知ったうえで直せます。

決定そのものが、プロジェクトのルールや標準の方針として取り込まれることもあります。たとえば、「マスタを改定しても、確定済みの伝票は改定前の値のまま表示する」という決定が、受注で決めた後、請求・発注・出荷など伝票を持つ業務に広がり、プロジェクト共通のルールに書き込まれる、といった場合です。このときADRは消さずに、発展済みにします。

決定した内容を変更するときは、ADRを書き換えずに置き換えます。

規範

記録の単位は1決定1ADRとする。承認済みになったADRは書き換えない。変えるときは新ADRを起票して置き換え、元ADRのステータスを「廃止(新ADRにより置換)」にする。削除・追記もしない。番号は再利用しない。

複数の決定を1つのADRにまとめると、成果物との整合が取りづらくなるので、1決定1ADRを原則とします。追記を認めると、1つのADRの中に古い内容と新しい内容が混ざり、どの時点の内容で成果物を確かめればよいのかが分からなくなります。だから追記はせず、置き換えます。

成果物との整合を保つ

ADRの制約節は、影響範囲で成果物を示しています。ADRどうしも、置き換えや前提でつながっています。ADRが置き換わったり、成果物が消えたり名前が変わったりすると、指した先がなくなることがあります。そこで節目に、AIなどを使って、つながりが切れていないかを確かめます。見るのは次の3つです。

成果物に注記を付けているなら、注記のADRのIDが実在するか、別の工程のADRを指していないかも、あわせて見ます。

このうち、影響範囲の実在だけは、漏らさずに見ます。

規範

制約節に書いた影響範囲のうち、プロジェクトの文書に実在しないものは、すべて指摘する(「横断」は正しい値とする)。

影響範囲だけを厳しく見るのは、ADRと成果物のつながりの正本が、制約節の影響範囲だからです。ここが切れていると、【確かめる】はその決定を当てる相手を見失います。

前の工程の成果物を名指す決定

歯止め

後の工程で出た決定の制約節が、前の工程の成果物を名指すことは、違反として弾かない。品質シグナルとして観測にとどめる。

前の工程の成果物を名指すのは、ADRの章の規範(影響範囲に書けるのは、決めた工程の成果物だけ)から外れた書き方です。ただ、外れたこと自体が、前の工程で決めるべきことが決まっていなかったという合図になります。書き直させて消してしまうと、その合図も消えます。そこで弾かずに残し、名指された前の工程の成果物を直すときは、変更として扱います(変更管理の章)。

ADRの発生工程と、制約節が名指す成果物の工程を突き合わせれば、こうした決定はAIなどで拾えます。台帳が、シフトレフトの効き具合を映します。

次章への橋渡し決定を残す器は整いました。だが一つひとつの論点を潰しても、俯瞰したときの「抜け」は残ります。
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