付録成果物のサンプル ── 検査の手掛かりを備えた書き方の例
4章で、成果物に書いておく要素を挙げました。この付録は、それが実際の成果物のどこに、どう現れるかを見せるための切り出しです。
- 題材は、サイクルを1本通すと同じ「送料無料の閾値」です。1周目で決まった ADR-0231(閾値は業務部門が自分で切り替える)を反映した後の姿を、成果物ごとに数行ずつ切り出しました。
- 様式(表にするか、文章にするか、何という名前の成果物にするか)は、一例です。プロジェクトの標準の様式に、同じ要素を置けば足ります。
- IDの接頭辞(T・A・BR・ST・EX・UC・REQ・ISSUE)で、成果物の種別が分かるようにしてあります。
- 【未決:ISSUE-xxxx】は、未決の印の一例です。
[ADR-0231] は注記の一例で、ADRを知らない人が書き換えうる記述にだけ置いてあります。
業務の流れ:送料無料キャンペーンを実施する
| ID | タスク | 主体(レーン) | 開始条件 | 事後条件 |
|---|
| T-0101 | キャンペーンの条件を決める | A-0001 販売企画担当 | キャンペーンの実施が社内で承認されている | 対象期間と閾値が、キャンペーン計画に記録されている |
| T-0102 | 送料無料の閾値を切り替える | A-0001 販売企画担当 | キャンペーン計画に閾値が記録されている/担当者が閾値を変更できる役割を持っている【未決:ISSUE-0012】 | 閾値設定が「キャンペーン中」になり(ST-0002)、新しい閾値で送料が計算される/変更の履歴が記録されている |
| T-0103 | 受注の送料を計算する | A-0002 受注システム | 顧客が注文を確定した | 閾値と注文の合計金額から送料が決まり、受注に記録されている |
| T-0104 | キャンペーンを終える | A-0001 販売企画担当 | 対象期間が終わった | 閾値設定が「通常」に戻っている/変更の履歴が記録されている |
- タスクごとに、主体・開始条件・事後条件を持たせます。事後条件は、処理の言い換え(「閾値を変更する」)ではなく、終わったときに成り立っている状態で書きます。
- T-0102 の開始条件の一部は決まっていないので、未決の印を付けてあります。
主体の一覧
| ID | 主体 | 担うこと |
|---|
| A-0001 | 販売企画担当(発注者側・販売業務) | キャンペーンを企画し、閾値を切り替える |
| A-0002 | 受注システム | 受注の送料を計算する |
業務ルール
| ID | 業務ルール |
|---|
| BR-0005 | 注文の合計金額(税込)が閾値以上なら、送料を無料にする。閾値は、キャンペーンの期間中に限り、販売企画担当が変更する。 |
状態の定義
| ID | 状態(閾値設定) | 意味 | 入る/出るタスク |
|---|
| ST-0001 | 通常 | 通常の閾値で送料を計算している | T-0104 で入る/T-0102 で出る |
| ST-0002 | キャンペーン中 | キャンペーンの閾値で送料を計算している | T-0102 で入る/T-0104 で出る |
例外の一覧
| ID | 例外 | 起きるタスク | 扱い |
|---|
| EX-0003 | 閾値に、0円以下の値や数値でない値が入力された | T-0102 | 変更を受け付けず、閾値設定は変わらない |
| EX-0004 | キャンペーン中に受け付けた受注が、終了後に変更・取消された | T-0103 | 【未決:ISSUE-0015】 |
ユースケース
UC-0003 送料無料の閾値を変更する [ADR-0231]
主体 :A-0001 販売企画担当
実現するタスク:T-0102
事前条件 :キャンペーン計画に閾値が記録されている
担当者が閾値を変更できる役割を持っている【未決:ISSUE-0012】
基本の流れ :1. 担当者が、新しい閾値を入力する
2. システムが、入力された値を検証する(EX-0003)
3. システムが、閾値設定を「キャンペーン中」に切り替え、
変更の履歴(変更日時・変更者・変更前後の値)を記録する
事後条件 :閾値設定が ST-0002 になり、以後の受注は新しい閾値で送料が計算される
要求事項
| ID | 要求事項 | 出どころ |
|---|
| REQ-0012 | 販売企画担当は、開発側のリリースを伴わずに、送料無料の閾値を変更できる | UC-0003・BR-0005 |
| REQ-0013 | 閾値の変更履歴(変更日時・変更者・変更前後の値)を保持する | UC-0003 |
| REQ-0014 | 期間を指定して、閾値の切り替えを予約できる【未決:ISSUE-0013】 | T-0101 |
サンプルと、検査の手掛かりになる要素の表の対応
| 成果物に書いておくこと(4章) | このサンプルのどこにあるか |
|---|
| 要素ごとのIDと、IDでの参照(例:要求事項 REQ-0012 に「出どころ:UC-0003」と書く) | どの行にもIDがある。要求事項の「出どころ」、ユースケースの「実現するタスク」、業務の流れの「主体」が、IDで前の成果物を指している |
| 業務の流れの各タスクの、開始条件と事後条件 | 業務の流れの表の、開始条件・事後条件の列 |
| 各タスクを担う主体(レーン/アクター)と、主体の一覧 | 業務の流れの表の主体の列と、主体の一覧 |
| あいまい語でない事後条件(判定基準)と、状態の定義 | T-0102 の事後条件が、状態(ST-0002)と「新しい閾値で送料が計算される」で書かれている |
| 業務ルールと、成果物からそこへのつながり | BR-0005 と、REQ-0012 の出どころ |
| 例外の一覧 | 例外の一覧と、ユースケースの基本の流れから EX-0003 への参照 |
| 成果物の種別(要求事項・ユースケースなど)が分かること | IDの接頭辞 |
この切り出しには、未決が3つ残っています(ISSUE-0012・0013・0015)。通し例の1周目で残った未決とは一部違います。切り出しの中で起きる未決を選んだためです。未決が残っていても、未決と分かる形で書かれ、ISSUEへ辿れれば、成果物としてはそれで足ります。